大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和62年(わ)34号 判決

判決主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(罪となるべき事実)

被告人勝矢孝雄は、千葉県東葛飾郡沼南町岩井四六八番地に居住して農業を営み、養父勝矢久雄の死亡(昭和五九年二月二八日)により同人の財産を他の相続人と共同相続した者であるが、高額の相続税納付を何とか免れる方法はないものかと思案の末、知人を介して紹介された東日本同和会副会長中島文男、同会中央日本本部相談役宮原一、同会中央本部理事鈴木洋樹、右中島の知人である税理士綿引爽五らに対して本来ならば納付すべき相続税の一部をひそかに免れることについて相談、依頼したところ、最終的に同人らから、被相続人について一億四五〇〇万円の架空の連帯保証債務を計上して課税価格を減少させる方法で右目的を達することとしたいとの意向を示されて応諾し、右の相談がまとまり、ここに被告人は、前記中島、同宮原、同鈴木、同綿引らと右共謀のうえ、昭和五九年八月二八日、千葉県柏市柏一丁目二番一八号所在の所轄柏税務署において、同税務署長に対し、被相続人勝矢久雄の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は、三億八三九七万三〇〇〇円で、このうち被告人勝矢孝雄分の正規の課税価格は、三億二九〇四万円であったのにかかわらず、右勝矢久雄には、高橋一夫、小松賢郎及び許勇に対する合計一億四五〇〇万円の連帯保証債務があり、右勝矢久雄の相続人である被告人勝矢孝雄においてこれを負担すべきこととなったので、取得財産の価額からこれらを控除すると相続人全員分の課税価格は、二億三八九七万三〇〇〇円で、被告人勝矢孝雄分の課税価格は、一億八四〇四万円となり、これに対する被告人勝矢孝雄の相続税額は、三九七七万六五〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人勝矢孝雄の正規の相続税額九六一五万一六〇〇円と右申告税額との差額五六三七万五一〇〇円を免れたものである。

(量刑事情)

本件ほ脱税額は、約五六〇〇万円という高額であり、いかに突然の相続税負担に思い悩んだ末のこととは言え、法規通りに納税し義務をはたしている多くの国民との対比からみて軽視できない。のみならず、ほ脱にあたっては、その方法として一億四五〇〇万円の架空の連帯保証債務を計上し、その債務が実際に存するかのように装うため架空の手形振出及び裏書、架空の抵当権設定、架空の領収証の作成などをしたもので、手口が巧妙悪質でもある。被告人が自己の利益をはかろうとして相続税の納付軽減をあれこれ画策したことがそもそも本件の発端となって、前記中島、宮原以下の分離前の相被告人らをもこれに巻き込み、ついで同人らに恰好の機会を与えるにいたったことの刑責も軽くない。

ただ、被告人は、日頃は真面目で、地元での信用も厚い人柄のようである。加えて、すでに本税、延滞税等の納付がされ、重加算税の納付も近いと見込まれる現状等を考慮し、主文のとおり量刑する。

(適用した罰条)

相続税法六八条一項、二項、刑法六〇条(懲役刑及び罰金刑を併科する。)

刑法一八条、二五条一項

(裁判官 秋山規雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!